140字で足りないこと

最近「うみねこのなく頃に」を始めました。

うみねこ咲をプレイして

2010年に最終話となるEP8が頒布され、小冊子等で新規短編は公開されつつも、「golden witch」を題したナンバリングの新シナリオは完結以降では初めて…ということでメチャメチャ緊張しつつのプレイでしたが、結論から述べると良質な短編シナリオでした。

ぶっちゃけ、プレイ直前までは珍しく胃がキリキリしており、その理由と言えば、うみねこ咲の主題歌「白金のエンピレオ」の歌詞がヒジョーに不吉だったせいです。"愛を知る者たちを嘲笑い虚妄に還す"とか歌ってるんですよ。怖い。

……そんなわけで、今回の新シナリオで、我々がEP8までに築いてきた幻想やら妄想やらをひっくり返してくるのではないかとガクブルだったわけです。……まあ、ある意味では、その通りではあるんですが。

 

■新シナリオ「lastnote」について

「難易度は高め」ということなのでで覚悟して挑んだものの、実際のところ結構あっさりバッサリ犯人が特定できてしまったのでは?

今回は「私はだぁれ?」という一点のみの出題。ただし魔女幻想の肯定・否定は問わないことになっていました。

……正直。この難易度の高さを理解できずに読み終えてしまってるプレイヤーもいるような気がします。なぜなら結局のところ右代宮明日夢という"ニンゲン"が正解なオチだったのですから。

ピースのゲームの真の恐ろしさは"幻想の魔女や家具"が犯人だという解答でも十分に許されるところにあるのです。

それはロノウェでもルシファーでも構わない。彼らがこのたび初披露の魔法で親族を殺害した…が正解だとしても、それは今回のゲームでは許されてしまう。作中で戦人やベアトが指摘した青き真実「ピースが犯人である」を、ちゃんとクソ真面目にシリアスに捉えられましたか?

まあ、所詮は幻想描写じゃん? と切り捨ててしまい、名有りの登場人物から"ニンゲン"に絞り込んで適当に挙げれば犯人に思い当る…みたいな方法でも今回は切り抜けられちゃうわけですが。

…っていうか、実際にピースが霧江たちを殺してるんですよね、あのカケラでは。ウィルも「死体なき事件であることを禁ず」と言ってるでしょ? どっちにしろ死体は消されちゃってますけどね。フェザリーヌのカケラというのはそういうことです。ベアトと違って、何も制約がない。

で、シナリオ自体はめっちゃ泣けました。というか割と早めに正体が特定できてしまうせいで、存分に涙腺が緩ませられるって寸法かもしれません。そしてうみねこファンならば、どこかで聴いたことのあるBGMが流れ始めた時点で、その曲のタイトルを思い出せれば確信できてしまう。憎い演出でした。

 

■新魔女ピースについて

魔女を名乗って登場する新たな敵、ただのお淑やかな少女なワケがないでしょう?

アヘ顔ダブルピースで奇声を上げる「駒の魔女」のピース。…その能力は、髪をカーテンの海にして相手を呑み込み、その"存在"ごとを消し去るというもの。個性あふれるキャラクター、ビジュアル、新キャラとして申し分なしという感じです。

フェザリーヌ直属の刺客として登場したのは驚きつつも、確かに髪型似てるしな…と納得しました。

さて、フェザリーヌの駒たる彼女の魔法、ハチャメチャに高度で上位なものです。戦人たちが「黄金の魔法」に近いのではと考察していましたが、魔法としての格が違いますし、どちらかといえば「無限の魔法」の方が系統としては類似していると思われます。

ベアトの「無限」は、言ってしまえば過程の修飾によって、事実を上塗りというか、上書きしてしまう力があります。……実際はライフル銃で殺害したとしても、それを魔女幻想で事実を塗り潰し、魔女が魔法で殺したことにしてしまう。…ただし、それは元から記述されていた文字の上に、別の文字が印刷されたテープを貼り付けるようなもの。ウィルのような異端審問官にぺりぺりと丁寧に剥がされたら、元の文字が露見してしまう程度のものです。

一方でピースは文字を消しゴムで真っ白に消してしまえるわけですから、その恐ろしさは比較になりません。より、不可逆的というか。後には綺麗さっぱり真っ白な紙が残るだけ。虚無です。そこに再び世界を紡ぐなら、また0から鉛筆で書くしかないわけです。……まだ彼女の恐ろしさが理解できませんか?

たとえば。これこそ真実にして事実にして現実であり、その他は幻想妄想白昼夢の作中作だ! と言い切ってしまえるほどの「一なる真実」というものがあります。

「一なる真実」とは霧江と留弗夫が大量殺人に手を染めて絵羽に返り討ちに遭う、アレですね。…個々人が信じるか信じないかは勝手ですが、一般的な解釈だとそういうことになってます。

で、その「一なる真実」でさえも、消してしまえるのがピースなんです。だって実際のところ、我々は漫画版EP8で補足されるまで、奇跡的に無事だった安田紗代が地下通路で戦人と会って…なんて事実を知らなかったはず。あれはピースがカケラごと呑み込んでたのを、コミカライズで加筆があるというので吐き出してくれたものなんです。

……わかりますか? つまり原作者がうみねこという物語において、ここは描くべきか描くべきでないかと悩んだ結果の取捨選択。その「捨」にあたる力こそがピースそのものといってもいいでしょう。ここまで説明すれば、恐ろしさが理解できたでピスか?

ちなみにこのキャラ、07thファンには有名ですが新規描き下ろしデザインのキャラではありません。とはいえ没キャラでもない。かつて竜騎士07ローゼンメイデンオリキャラコンテストに応募した「金剛石」というキャラがデザイン元です。なんやねんそれ。